| Nachtmusik 水色一ページ |
「ねえ幾世くん」 「ん？」 「りさちゃん、幾世くんのことが好きらしいよ」 「ふーん」 「ふーんって、それだけ？」 「それだけ」 にっこり笑う幾世くんの顔がちょっとにくらしくなった。こんなんじゃ、りさちゃんがかわいそうじゃない。 「りさちゃんかわいいよ。男の子たちに人気あるんだよ？」 「でも、おれはほかに好きな子がいるから」 「えーっ！ ほかに好きな子いるの！？」 思わず大きい声で叫んでしまったあたしは、あわててばちんと手のひらで口をおさえた。それでも教室のみんなが、興味しんしんの顔であたしたちを見た。 「おんなじ学年？ それとも五年生？」 みんなに何でもないって手を振ってあっち行け攻撃をしながら、あたしは小声できいた。りさちゃんには悪いけど、幾世くんが好きな子ってどんな子なのか、ちょっと興味があったりする。 「まさか中学生じゃないよね？」 「ちがうよ」 「ね、どこのクラス？ 何年生？」 「ないしょ」 「ないしょはだめ！ ね？ だれなの？」 「ないしょだってば。君には関係ないんだから」 「関係あるよ！ だってりさちゃん、あたしの親友なんだから！」 机から身を乗り出して、ずいって詰め寄ったそのとき、教室の後ろのドアから聞きなれない声が聞こえた。 「幾世君、いますか？」 振り向いたあたしは、幾世くんの顔が、教室の後ろのドアのところに立っていた声の主を見つけて、ぱっときれいに明るくなったのを、見てしまった。 長いさらさらの髪をした女の子だ。六年生の廊下では見たことがないから、きっと五年生だと思う。でももしかしたら……背が高めの四年生かもしれない。名札はここからじゃあよく見えないけど。 「ちとせ！」 「幾世兄、今日、いっしょに帰れる？」 「……ごめん。今日は委員会があるから」 「私、待ってるよ」 「そんなの悪いよ。ちとせは先に帰ってていいよ」 「悪くないよ。私が幾世兄といっしょに帰りたいんだから」 あたしは幾世くんと女の子のやりとりをぼんやりながめながら――りさちゃんには悪いけど、きっと、この二人のあいだにりさちゃんが入れるところはないよって、思わずにはいられなかったんだ。 |
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