綱わたり 深呼吸をひとつ。 まばたきをふたつ。 左胸に手を当てれば、不規則に波打つ鼓動。 息を止めて、すらりと踏み出す第一歩。 足裏に、細い命綱の感触がある。 ここを踏みはずしたならすべてはおしまい。 揺れる一本道の、静かな道のりのはじまりはじまり。 目の前には無数の道がひらけているだなんて嘘。 やわらかな目隠しをはずせば、やはりそこは一本道。 両腕を広げて、 泣きたい心臓に手綱をつけて、 一歩一歩、 不確かな道を綱渡り。 痛む足裏 揺れる細道 選ぶことなどできないただひとつのロープ。 両手を水平に伸ばしたまま、 足を止めて息も止める。 選ぶことなどできないというのなら、いっそここから飛び下りてしまおう。 ゆらゆら揺らぐロープを蹴って、 私は夢中で手を伸ばす。 指先に触れた新しい命綱 夢中でしがみつき、振り子時計のように揺られる気分はターザン。 足元に選べる道がないのなら、 そこから飛び出てしまえばいい。 暗いステージに目を凝らせば、そこかしこにぶらさがるいくつもの未知 ロープを這い上がり、また新しい一歩を、 そろりそろり 歩き始めればいい。 |
＜back next＞ |