人魚姫 牢屋に閉じ込められた人魚姫は、 海が恋しいのではなく、 あなたの微笑みが恋しくて泣いているのです。 誰にかどわかされたのですか。 あなたをお救いしたのは私です。私です。 舌のない喉で叫んでも、誰にも聞こえない。 真珠の涙を流したなら、 あなたは欲に突き動かされて、 この真珠を拾いに来てくれるでしょうか。 鉄格子のなかを真珠でいっぱいにしましょう。 かがんでそれを両手にすくうあなたの背に、 人魚姫は短剣ではなく、 悲しみの刃を突き立てるのです。 この胸を切り裂いて、 血の雫を紅さんごの粒にしましょう。 そうしたなら、あなたは私の心臓を慈しんでくれるでしょうか。 紅さんごの血を流す心臓を、 ガラスケースに入れて何よりおそばに置いてくださるのなら、 それも悪くはないと思うのです。 けれども私はあなたに選ばれはしなかった。 真珠よりもさんごよりも、 あなたは彼女を選ぶのでしょう。 人魚姫は海に消えて、 形すら残さない泡になりましょう。 そうしたらあなたが、 むくろのない私のこの牢に、 墓標代わりの短剣を突き立ててやってください。 |
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