閑話 　淡く明るい色調のオレンジシフォンを重ねたドレスをあてがわれ、鏡の前でアーレインは疑わしげに首をひねった。 「……明るすぎやしないかしら」 「いいえ、お似合いですとも」 　女中のマリサはうきうきとうけあった。 「アーレイン様はいつも暗い色ばかりをお選びになるきらいがおありなんです。臙脂に紺色、深緑に濃い紫、そういった色ばかりを！　夜会くらい、きれいなお色を着なくてはもったいないですよ」 「でも、やっぱり明るすぎない？　それに腰から下がこんなに広がるシルエットだし。……太って見えそうで、嫌なのよ」 　ヘーデンの城主であり親友でもあるリンコレッタの、折れそうなほどにたおやかな腰や手首の細さを思い出し、アーレインは恐ろしくなってかぶりを振った。リンコレッタならば薄布を花びらのように重ねる淡色のシフォンドレスも抜群に似合うに違いない。しかし、田舎の町娘として育ったみずからの身体にそれを着るのは、何とも気がひけた。 「こうして花を逆さにしたようにふくらんでいるドレスこそが、若い娘が装うものですのよ。それともバッスルにします？　近頃の流行ですよ」 「華奢な皇妃様やリンコレッタにはいいかもしれないけれど、私には似合わないわ」 　アーレインはシフォンドレスをもどして藍色のガウンを手に取ろうとしたが、マリサに押し返されてしまった。 「あんまり華奢すぎるのも殿方にとって魅力的ではありませんでしょう？　アーレイン様は太からず細からず、均整がとれておいでですよ！　恥ずかしがられずに、明るい色のドレスもお召しになるべきなんです。本当はピンクをおすすめしたいところですけれど、アーレイン様の肌色にはオレンジの方がお似合いでしょうから、ほら、こちらをお召しになって」 　ピンク！　恐怖に近い何かを感じながら、それならばオレンジのほうがましだという気になって、マリサにうながされるままに、しぶしぶ、アーレインはやわらかな淡い色合いのドレスに着替えた。生地の肌触りはとてもすべらかだが、首筋も肩もあらわなデザインなので、何とも心細い心地がする。 「お若いんですもの。せっかくなんですから素肌を出さなくては」 　マリサは年増の女官のようなことを力強く言って目を細め、アーレインを眺めた。しかし実際のところ、アーレインの肩にはライナスに斬りつけられた傷痕が今もまだ生々しく残っているのだ。まじないによって見せかけだけは他の肌と同化させているものの、不意に触れられればすぐに術が解け、引きつった痕があらわになってしまう。 「……ねえマリサ。やっぱり、こんなふうに肩が全部出ているのは落ち着かないの。片方の肩だけでいいから、覆うような飾りか何かをつけることはできない？」 　マリサはあまりいい顔をしなかった。けれどもなんとか拝み倒して、最終的にはカメリアのコサージュを作ると約束してくれた。大きなコサージュができあがればそれで傷を隠すことができる――アーレインはほっとした。傷を隠せることにではなく、何かの拍子に術が解け傷を目の当たりにしたら間違いなく罪悪感に歪むだろうライナスの表情を見ずに済むことに、彼女は安堵した。

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